従業員への事業承継の問題点
従業員への事業承継の問題点
上記で述べましたように従業員への事業承継は、26%と確実に伸びています。これは、多くの中小企業経営者が後継者の決定要因として、「血縁・親戚関係」よりも「経営能力」を重視すると述べられていることからもうなずけます。
「親族内に承継しなければならない」という風潮が薄れていく中で、子息・子女・親戚に適任者がいないという状況下では、事業に精通した経営スキルの高い従業員がいれば、これは立派な承継候補となると思います。しかしながら、従業員への承継には様々な問題があり、その解決には難しい問題が多々あります。
中小企業では経営者に株式の過半が集中しています。このため優秀な従業員を「社長」にして事業を承継しても、先代経営者がオーナーあるいは会長として采配を振るうことが多く、新経営者が自分の路線を打ち出しにくく、権限のないお飾り社長的立場で終始せざるを得ない場合が多々あります。
このような状況下では、新社長のリーダーシップは発揮されないままになります。こんな時オーナーが亡くなると、すぐに株式の相続問題が発生し、株式がオーナー一族に分散相続されると、会社の運営権限も分散されます。その結果、意思決定権や代表権さえも不安定になり、まとまりのない会社になってしまいます。
通常中小企業では 社長に権限と責任が集中し、一極集中管理で、独裁的に経営されている場合が多いのですが、これが崩れるとあちらこちらから不協和音が聞こえてきます。その結果、何も決められなくなってしまい、会社の運営そのものがおかしくなってきます。
このような事態を防ぎ、スムーズに承継させたいと考える中小企業経営者であれば、将来を見越して、株式の相続に伴う混乱を回避しなければなりません。それには後継者に「社長」の椅子を譲ると同時に、自身の持株を譲っていく必要があります。しかしながら多くの中小企業の従業員は、株を買うだけの資金を持っていません。たとえ役付き従業員であっても、株を買い取るだけの資金を持っている、あるいは集められ者は極稀にしかいないのです。これは従業員への承継での大きな問題点となります。
また株式を譲っていく経営者側にも、躊躇する点があります。中小企業の経営者というものは、苦労してきているだけに、生涯現役、それも権限を残したままの生涯現役にこだわりを持っています。承継者が血縁関係にある者であれば、 家族的家長として、会長的役割をこなしながら余命を全うできるのですが、信頼できる従業員とはいえ、元を明かせば赤の他人ですから、ある程度の防衛的措置は講じざるを得ないのです。
このように血縁関係にない自社の従業員を後継者とすることは、色々な難しい問題が残ることだけはよくよく承知しておかなければならないと思います。
スムーズに承継したいと思うのなら、経営者存命中に、代表権を維持できるだけの株の譲渡は不可欠となりますし、代表者として権限を行使して実務運営させ、その運営を既成事実化し、軌道に乗せておかなければならないと思います。それには一歩引いて新経営者の運営を見守る姿勢と、この者に託すという、揺るぎのない固い決意が大事になってくると思います。